
去年の年末、久々に万年筆を購入した。鉛筆等のように手が汚れにくく、且つくっきりとした文字を適度な摩擦の下で筆圧をかけずに書ける筆記具といったらこれしかないだろうと、高校時代に良く使っていたデスクペンの事を思い出していたら、急に万年筆熱がぶり返してきたのだ。
ぶり返してきたと言ったのは、大学生時代に一度万年筆を購入していたからだ。但し100均でである。当時は安アパートで月の食費が1万円を超さないように気をつけていた位の貧乏暮らしだったので、非生活必需品に多額の予算を割けなかった。しかし安値なら安値なりのクオリティであり、それ故あまり愛着も湧かなかったものだから、知らないうちにその万年筆は何処かへ姿を消してしまった。昔使っていた筆箱に入っていたりするだろうか。
さて、去年の暮れに購入したのは、セーラー万年筆の『プロフィット21(M)』である。試し書きをした時に、あまり手に反発が返ってこない柔らかい書き味に一目惚れしてしまった。また、万年筆によくある黒と金のカラー(界隈では仏壇カラーなどと言われているらしい)もやはり目を引く。まあBF1でもレジェンダリースキンは多くがこの仏壇カラーだから、なお近しいものを感じた。当初はプラチナ万年筆のセンチュリー系の物を買おうとしていたのに、21金のクオリティに意識を持って行かれてしまった。
同社の顔料インク、『極黒』をコンバータに入れて暫く使用していたが、やはり心地好い書き味にスラスラ筆が進む。しかも、元々クッソ汚い自分の字も万年筆効果によって少しばかり上品に見える。様々な淫夢語録でさえも、幾分か美しい雰囲気を纏って紙上に君臨するのだ。だが流石にこれは汚い。
すっかり万年筆に魅入ってしまった自分は、帰省先のデパートでも高級筆記具コーナーをうろついていた。もう一本、今度はEF(極細)の物が欲しい気持ちが芽生えていた。しかし今度は海外製でかつ、国産の極細並に細いものにしたい(海外の万年筆は、同サイズ表記でも国産の物より太い傾向があるようだ)。それで不意に目に入って来たのが、LAMYの『サファリ スケルトン』である。機能美に全振りした様なデザインに心を揺さぶられた。だが、調べてみると本品も例に漏れず、EFでも国産の細字ぐらいになってしまうようだ。このまま勢いで買ったとしても、既存のプロフィット21と役が被ってしまい、どちらか一方を使わなくなり、やがてインクを固めてしまう事は容易に想像できた。その為、泣く泣く購入を断念した。
帰省先でも万年筆で書き物をしていると、何と言うことかインクが切れてしまった。ボトルインクは持ってきていない。仕方なく、これまで使っていた貰い物のボールペンを引き続き使用した。だがこれが辛い。やや強めの筆圧をかけて少し薄めの黒が出てくる程度だ(別にインクが切れている訳ではない)。もう少しマシなボールペンが欲しいと思い、それならジェットストリーム辺りが良いだろうか・・・と検討した。しかし筐体のデザインで惹かれる物がない。どうしようかと悩んでいると、ふと上記のラミー製スケルトンの事が浮かんだ。
サファリシリーズは、万年筆版のものもあればローラーボール版の物も存在する。デザインも、先端がニブでない分若干ロマンは落ちているがそれでも全体の格好よさ自体は変わっていない。また別メーカーのリフィルアダプター『BA-LM-63』を使用すれば、サファリの筐体に対し、例えばジェットストリームのリフィルを取り付けることが出来るようだ。素敵な外見に、書き味に定評のある中身。これで、本品を購入する口実ができた。しかし、リフィルについてはできる限り書き味を確認してから購入することにした。
後日、文具店で実際にリフィルの試し書きをしたのだが、正直ジェットストリームよりユニボールシグノの方が滑らかに書ける感覚を味わえたので、後者を買うことにした。そしてサファリ本体とアダプターを購入し、さあリフィル交換だ・・・となる前に、先ずはラミーデフォルトのインクの書き味を確認する。当然とも言うべきか、普段使っていた貰い物のボールペンよりは低筆圧の上、万年筆の筆跡に迫る濃さで文字を書くことができた。そしてやはりサファリ筐体の、スケルトンと機能美デザインの組み合わせは実に素敵である。正直リフィル替えなくてもこれで間に合ってるんじゃないかという気分になってしまったので、暫くはこのデフォルト仕様で使うことにした。アダプターの封を開けるのは暫く先になりそうである。
さて、大事に持つべき筆記具がこの1~2週間の間に新たに2つ出来てしまったが、極細仕様の海外製万年筆が欲しいという気持ちは今でも萎えていない。プロフィット21購入後に万年筆熱が湧いて、様々なデパートを物色し始める辺りまでは、アウロラの『イプシロン』シリーズが非常に気になっていた。が、実物を見た時、何となく心の中に僅かに灯ったコレジャナイ感をキャッチしてしまったので、本品はひとまず見送った。
それ以降は寧ろ、同社のもっとシックな雰囲気のある『オプティマ』シリーズがとても気になり始めている。出来れば今すぐに購入してしまいたい気持ちすらあるのだが、如何せんAmazonでも5万円台と高い。もう暫く検討してみて、それでも欲しい気持ちが変わらなかったら買う事にする。
但し、今年の10月からは消費税が10%に上がる予定な上、またそれ以前に増税前需要も出てくるだろうから、それまでには結論を下しておきたい。
個々の役割について考えず、ただ気に入ったという理由だけで万年筆をこまめに買い集めて持て余す様な事は避けたいし、また本当のお気に入り且つ高価な物を少しばかり持つようにすれば、そう簡単に他に目移りしにくくもなるのではないだろうか・・・。
因みに現時点では、インクに対する執着はそれ程ない。インク沼がとても厄介らしいので、少なくとも今の自分は大丈夫だろう。精々、ブルーブラック系のインクは何処の物が良いのか少し気になる位だ。
俺は文具沼になんか嵌まってないからな。