2020年:あゝ上半期(書評まとめ)

2020年7月15日水曜日

読書

さて既に2020年も後半に差し掛かってしまった。本来ならばこの記事の為に、現在手を付けている1冊の本を読了するつもりであったのだが、近日中に読み終えて且つ感想を纏める事が難しいと悟った為、そちらについては年末に回そう(そもそも上半期をとうに過ぎて未完読のタイトルにここで言及するのもどうかと思った)。

幾つか読んできた物の中で特に心に残ったタイトルをここでピックアップしていくのだが、今年は自粛による通勤機会の減少のあおりを受けて読書時間も減りがちだったので、その影響で本記事で扱える物も相応に少なくなってしまった。一先ずここでは3タイトル程言及したい。

複雑系への興味から『無駄』を巡る雑感へ

始めに述べるのは、都甲潔(共著者略)著の『自己組織化とは何か』である。

就職して間もない頃は、きっかけは忘れてしまったが複雑系に関する本を度々読んでいた。そして時を経て昨年読んだ『歴史は「べき乗則」で動く』に刺激され、このトピックに関して学ぶ意欲が久々にぶり返してきたのである。そういう訳で、さて生物的にシステムが構築されていくとはどういうことなのか・・・と漠然とした疑問を抱きながら本著を読み始めた。

表題で示されている自己組織化の具体例として、粘菌・脳・生体パーツ・味覚・嗅覚等について述べられていた。犬の嗅覚をも凌ぐ地雷探知用の嗅覚センサーを自己組織化の技術で作る説明等、興味深い具体例についても幾つか述べられていたのだが、自分にとってはそれ以上に『進化』のメカニズムに関する説明がとても印象に残っている。

遺伝子のコピーにおいては、それ自身の揺らぎによってエラーいわゆる突然変異が時折発生し、それによって死ぬ事もあるが、淘汰を潜り抜けたならばそれで得られた特性・失った特性は子々孫々へと受け継がれる。これが進化である。この失った特性というのが、偽遺伝子と呼ばれる『使われずただ蓄積されている遺伝子』である。本著ではこの様な遺伝子中の揺らぎによって『進化』が起こるという旨を説明していた。しかしそれらを読み進めていく内に、全く別の事にその考えを敷衍してみたくなったのである。少し本著の内容からややズレた話をするが容赦頂きたい。

無駄と効率という概念は、世間的にはとかく前者は疎まれ後者が歓迎されているが、それぞれ進化と洗練の土台となるという意味ではどちらも重要である。学生時代は半ば義務感から、社会人になってからは純粋な好奇心から『様々な勉強』をしてきた訳だが、これらはすぐに実践的に活かす事が出来ないという意味においては『無駄』と言える。だが何かを探求していく上で、既存の成果を発展させるアプローチが行き詰った時は、全く別系統の発想が必要とされていくものである。このくだりも上述の『歴史は「べき乗則」で動く』でよく詳述されていた。

この様に、元々自己組織化の仕組みを学ぶ目的で本著を読んだのに、それ以外でも上述の様な気づきを得られた。この様に一見本著のテーマとは関係のない要素同士が前触れもなく頭の中で結びつく瞬間に立ち会えるのも『無駄』を学ぶ意義である。こういう事が有るから、ペースは落ちていっても読書その物は止められないのだ。

勿論、単に要点が纏まった知識や結論を手早く掻っ攫いたいならばネット記事でも間に合う。しかし本の厚みは、単に必要な知識を詳述しているという事を越えて、ネット記事にはない数多くの『無駄』を内包しているとも言えるのである。

名銃を開発したソ連人の人生

次はエレナ・ジョリー(訳:山本知子)著『カラシニコフ自伝』。

本著は、その性能・コスト・信頼性等といった要因から世界中に拡散していった銃『AK-47』を設計した、カラシニコフの人生を、著者のインタビューを基に総纏めにした本である。

カラシニコフの幼少期から戦中におけるエピソードは、まるでよく出来た小説を読んでいる時の様にページを捲った物だが、これらが全て本人の実体験そのものなのだという事が気分を重くさせる。当然ながらその後に『AK-47』が出来るまでの経緯も詳しく書かれていただけでなく、また当時のロシア人の生活様式も窺える描写もあって興味深く読めた。

ソ連の各時代の指導者に関しても、本人の考えやエピソードが率直に述べられていた。一定の距離を取りつつも読み進めたこのくだりも、当時を見てきた一人のソ連人の生の声なのである。

拘らない事に拘らないよう気を付ける

最後は、森博嗣著『なにものにもこだわらない』。

自分はこれまで著者の小説作品を一度も読んだ事がない一方で、去年もそうだったがエッセイの方はつい目を通してみたくなってしまうのである。これは単に自分の考えと著者のそれに似通った点がある事を見出したからにすぎず、また実際読み進める中でも終始それが裏切られる事はなく、本著も楽しく完読できたのだった。

上述の『進化』の説明にも通ずる物があるのだが、結局視野を広げて物を考えるには、一つの事にとらわれない様にする事が重要だ、というのが本著の主張である。

下半期に残した物

上半期で特に印象深かったタイトルは以上の通りである。

さてここで白状する事にしよう。近日中に読み終えるだろうと高を括っていて結局次に持ち込む事にしたタイトルは、ベアトリス・ホイザー著『クラウゼヴィッツの正しい読み方』である。昨年末からちまちまと読んでいて残り数十ページという所まで行ったのだが、クラウゼヴィッツ及び彼の著した『戦争論』に関して論述した内容である以上相当に難しく、スラスラと読み進める事は出来ない。

またクラウゼヴィッツの他にも、軍事学関連においてはジョミニやリデルハートの著書への興味も尽きていない為、どちらかは今年中に手を付けてみたい所である。